全国五千四百万人のメトロ書店ファンのみなさまこんにちは!
災害のことを天変地異、地震雷火事おやじ、と古来より恐れてきたわけですがそれらに匹敵するくらい恐ろしいのが疫病です。
公衆衛生が行き届き、予防医学も発達した二十一世紀になっても、未知のウイルスに対しては手も足も出ない。いずれ手も足も出るのかもしれませんが、いまのところワクチンもなければ確実な治療薬もない。頼るものが己の免疫力、生命力のみという日本人がしばらく忘れていた事態となりました。かつて忘れていた何かを思い出すこの時代に文庫になる衝撃作がこちら!
『無貌の神』(恒川光太郎・KADOKAWA文庫)
顔のない神さまという響きだけでも体が冷えるような不気味さがありますが、ぴんときた方もいらっしゃるかもしれません。無貌の神、とはラヴクラフトの作り上げたクトゥルフ神話において重要な役割を果たす強力な神格です。恒川さんが彼を描くとどうなるのか。驚きと身震いのうちに物語は進みます。
本書は短編集であり、六作それぞれ設定が異なっています。一作読み終えるごとに、これを短編で終わらせるのはもったいない、と叫びたくなるくらいの濃密さです。
。恒川作品がもつ大きな特長の一つが、文体と物語が織りなす陰影ですが、もちろん存分に発揮されていますよ。
見知らぬ古く大きな建物に足を踏み入れた時、山道を歩いてふと視線を感じた瞬間に、そこにぽかりと口を開けている陰と闇……。そこを描かせたら恒川さんの右に出る書き手はいません。ある意味、世界を覆う「闇」に直面しつつある私たちが今読むべき一冊であると私は思います。
唯一無二の力を持つ恒川さんですが、歴史小説や児童小説、ハイファンタジーと挑戦を厭わない。天才に努力されたらもうどうしようもありませんわ……。本書に収められている六編は恒川光太郎という作家のこれまでとこれからを存分に堪能できる、おすすめの一冊です。
(最近の仁木英之)
人生ステイホームの私、長すぎる春休みを満喫しすぎてもはや飽きているお子たちの相手で一日が過ぎていきます。ゲーム機は中学生になってから、という仁木家憲法十九条を改正し、元祖ファミコンの復刻版を買いました。スーパーマリオ難しい!
近刊は『魔王の子、鬼の娘』(徳間文庫)ステイホームのお供に戦国伝奇でドン。
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