全国八千万メトロ書店ファンのみなさまこんにちは! 奈良の山奥はそろそろ霜も降りようかという寒さで、季節の移ろいを感じさせます。こうした移ろいが無数に積み重なって歴史となり、現在の我々がいて、そして未来へと続いていきます。その流れに魅せられて歴史小説を書くようになりました。ファンタジーと歴史は私の作家としての故郷であり、中でも唐代中国は産院のようなもの。というわけで、そんな生まれ故郷に誕生した超新星をご紹介します。
『震雷の人』(千葉ともこ・文藝春秋)近年では額賀澪、川越宗一といったスターを輩出してきた松本清張賞が新たに掘り当てたどでかい原石、それが千葉さんと本作であります。
本作の重要人物である顔季明は唐を揺るがした安史の乱において、遠戚の顔真卿と共に安碌山と激戦を繰り広げた忠臣、顔杲卿の子です。優れた文人であった彼が大乱に巻き込まれ、やがて命を落とす。その死が主人公兄妹の運命を大きく変えていくのですが、この視点ですよ。ここ使います? 使って清張賞で勝負かけます? 一読すれば、ほんと俺が書きたかった!
と嘆息せずにはいられない面白さに納得ですわのお立ち合い。この面白さは千葉さんの文体の美しさに裏打ちされているのですね。
キャラの造形の美しさ、その行い、志の美しさ。もちろんただ上っ面だけてらてらしているのでは決してなく、何層にも積み重なった確たる物語と表現に拠っているからこそ美しさを感じさせる。唐代という遠い時代が近く、そして鮮やかに読者に提示されるのです。
中国の、しかも唐代の、と手が伸びない方もおられるかと思います。でも今はやりの鬼の滅なお話だってみなさん伝奇やダークファンタジーそこまで読まなかったでしょって話で、手に取ってみればハマることは多いと思うのです。もちろん、初手でスベると厳しいですがこの『震雷の人』なら間違いなし。ぜひご一読を! 次号本コーナー最終回!
(最近の仁木英之)
疫病、長雨、酷暑ときて台風ときて大変な目にお遭いの方もいらっしゃるかと思います。そんな時はどうかほんの短い間でも、物語の世界に避難して空想の中で心を休めてください。物語はあなたを決して拒みません。そんなゴーツーファンタジーな私も新刊を出しております。『マギオ・ムジーク』(ジュラ出版局・フレーベル館)よろしくね!
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