大分涼しくなってきた11月の終わりのことだった。神社の境内にある茶屋にうどんを食べに行った。連れはもちろん家にいた祖母である。私は根っからの出不精なので、出かけるまでに時間がかかった。やはり神社は雰囲気が良いもので清々しい気持ちになる。とことこ歩いていたら茶屋に到着した。何年間も来ていないように感じられたが、つい半年前に来たようにも思われる。
祖母の散歩道はいつも決まっているようだった。神社の裏手をぐるっと回る。「昔はここに東屋みたいな古家があった」「たしかにあった気がする」取り留めのない会話の中にも思い出が沢山詰まっている。祖母は、結婚してこちらに来た初めの方、嫁姑問題やらで辛い生活を送っていたそうだ。「ストレスが溜まるとこの木に抱き付きに来ていたのよ」と言って、大きな太い木を指さした。抱き付いても幹の向こう側には腕が回りきらないほどだった。散歩道の途中にあるその木はとても立派であった。
また、祖母は頭の中で色々なお話を作り出すことが得意だと再確認した。大きな石がまばらに転がってある風景を見ると「あの巨石群はなぜここにあるのか」と謎解きをし始める。何かを祀っていたのではないか?といった具合である。その後、「絶対に何かあったであろう跡地」を巡り、カフェに入った。まずは水で乾杯した。祖母の感性の鋭さに完敗した散歩であった。
さて、家族といってもいろんな形態の家族がある。いまから紹介する本は、『ムーン・パレス』(ポール・オースター、柴田元幸訳、新潮文庫)という本である。舞台は、1960年代アメリカ。父を知らず、母と死別した主人公は、唯一の血縁だった伯父すらも失ってしまう。そこから人生が面白いように転落し始めた。ドン底まで落ちぶれた主人公は、ひょんなことから一風変わったアルバイトに手をつける。主人公の第二の人生が幕を開け、知る由もなかった家族の秘密に触れることになり・・・。この話は主人公が大学生であり、若い人にこそ読んで欲しい絶品の青春小説である。心が若い人にもなおさら読んで欲しい。
特に、ドン底時代の生活の様は目を見張るものがある。自分のことではないのに、なぜか心が揺さぶられるのだ。
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